大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)4875号 判決

原告

市川ひさ子

被告

小松美樹彦

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六四三万八一七三円及びこれに対する平成八年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用はこれを一〇分し、その六を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自原告に対し、金一〇八六万八四三一円及びこれに対する平成八年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告らに対し自賠法三条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成八年七月一三日午前八時一〇分ころ

(二) 場所 名古屋市西区五才美町三七番地先路線上

(三) 加害車両 被告小松美樹彦(以下「被告小松」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告運転の自転車

(五) 事故態様 交差点内で衝突

2  責任原因

被告小松は加害車両の運転者であり、被告合資会社川口自動車工場(以下「被告会社」という。)は加害車両の保有者である。

二  争点

被告らは、原告の損害について争うほか原告についても交差点を通過するにつき過失があったとして過失相殺を主張する。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  過失相殺

甲第四、第六号証、第一〇ないし第一四号証、乙第一号証、第四号証の一ないし六、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。

1  本件事故現場は、おおよそ東西方向を結ぶ道路と、おおよそ南北方向を結ぶ道路が直角に交差する場所であって、交差点内に信号機の設置はなく、東西方向を結ぶ道路には交差点内にも中央線の表示があり南北方向を結ぶ道路に優先する。南北を結ぶ道路には一時停止の標識が設置してある。東西方向を結ぶ道路の本件事故現場の西側は一〇〇メートル以上にわたって直線となっているが、本件事故現場交差点の北西角にはブロック塀が設置されており見通しが悪い。本件事故現場付近の東西道路周辺は郵便局、店舗、住宅等の立ち並ぶ市街地である。

2  被告小松は、東西を結ぶ道路を西方向から時速四五キロメートル程度で進行していたところ、本件交差点の手前約四〇メートル付近で前方に交差点を認めた後考えごとをしたまま進行して、約三一・五メートル進行した地点で初めて道路に進入しようとしている原告を発見し、危険を感じてブレーキをかけると共にハンドルを右に切ったものの、回避することができずに衝突した。被告小松が最初に原告を発見した時の原告の位置は、既に原告進行方向の停止線よりも東西道路側に入っていた。

3  原告(大正一三年九月二一日生)は、被害車両で南北を結ぶ道路を北方向から進行して交差点手前の停止線付近(当時。現況の横断歩道中程。甲一一の11ないし13)でいったん停止してまず右側(西側)、ついで左側の安全確認をした後、ふたたび被害車両をこいで交差点の中にはいったところ加害車両と衝突した。原告は、衝突に至るまで西側から進行してくる加害車両に気づかなかった。原告は、本件事故当時、日傘をさして取っ手を右手に持ち、その右手を被害車両右側のハンドルに添え、日傘の柄を右肩に掛けた格好で被害車両に乗っていたが、日傘は原告の左側の頭から肩にかけての後方に位置しており、原告の進路右側(交差点西側)の視界を妨げるものではなかった。

なお、被告小松作成の乙第一号証には、原告が停止線で停止せずに東西道路に進入したと感じられたとの記載があるが、前述のとおり、被告小松が原告を最初に発見した時の原告の位置は既に東西道路に入っていたのであるから、右の乙第一号証の記載を信用することはできない。

右に認定した事実、特に、被告小松は優先道路を走行していたものの、市街地内の道路で前方に本件交差点を認めながら減速することもなく考えごとをして前方不注視のまま約三〇メートル程度走行して原告の発見が遅れた点で著しい過失があるといえること、他方、原告については、東西道路進入時に加害車両を見落とし、あるいは東西道路に進入してから加害車両が接近してくることに気づかなかった過失があるとしても、東西道路進入時には一時停止して左右確認をしており、この時点で加害車両が原告の間近に迫っていたとは認められないこと、原告が本件事故当時七一歳の高齢であったこと等を総合考慮すると、原告と被告小松の過失割合は、原告三〇に対して被告小松七〇とするのが相当である。

二  損害

1  治療費(請求額一二万五九四〇円) 一二万五九四〇円

当事者間に争いがない。

2  入院付添費(請求額一万九五〇〇円) 一万六五〇〇円

甲第七、第八号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故により頭部打撲、骨盤骨折、右足骨折の傷害を負い、入院当初の三日間親族が付き添ったものであり、その傷害の内容、原告の年齢等に照らし、この付添に要した費用として一日当たり五五〇〇円、合計一万六五〇〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害として認める。

3  入院雑費等(請求額八万四七二〇円) 八万四七二〇円

当事者間に争いがない。

4  通院交通費(請求額一三万八三五〇円) 一三万八三五〇円

当事者間に争いがない。

5  休業損害(請求額二五八万〇三八〇円) 一二〇万四七二〇円

原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故当時、七一歳であるが、娘夫婦と同居して、娘は日中勤務に出かけているため、朝食作りの一部、掃除、洗濯、娘の指示に従って夕食の支度をするなどの家事を分担していたことが認められるから、平成八年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計女子労働者六五歳以上の平均給与額二九七万一二〇〇円の少なくとも八〇パーセントの稼働をしていたものと認められる。そして、二回の入院期間六二日間については右の一〇〇パーセント、通院期間の内二回目の入院前の平成八年九月一日から平成八年一〇月末日までは五〇パーセント、二回目の入院後の平成八年一一月一二日から平成一〇年二月一九日の症状固定までは二〇パーセントの割合で休業損害を認めるのが相当である。したがって、休業損害は一二〇万四七二〇円となる。

2,971,200×80%/365=6512.2

6512×62+6512×50%×60+6512×20%×465=1,204,720

6  入通院慰謝料(請求額一四八万円) 一三〇万円

甲第三号証、弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故により入院合計六二日間、平成一〇年二月一九日に症状固定となるまで通院実日数二一日を要したものであり、これに照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ入通院慰謝料としては一三〇万円が相当と認められる。

7  後遺障害慰謝料(請求額三八〇万円) 三八〇万円

原告が本件事故に基づく傷害により平成一〇年二月一九日の症状固定後は併合一一級の後遺障害が残存したことは当事者間に争いがないから、後遺障害慰謝料としては左記の額が相当と認められる。

8  後遺障害逸失利益(請求額三〇五万〇八二八円) 二〇七万四七五三円

前記認定と同様、六五歳以上の賃金センサスの八〇パーセントを基礎とし、症状固定時の原告の年齢をも考慮して、今後五年間(新ホフマン係数四・三六四三)、二〇パーセントの労働能力の喪失があったと認める。したがって、後遺障害逸失利益は二〇七万四七五三円となる。

2,971,200×80%×4.3643×20%=2,074,753.3

9  小計 八七四万四九八三円

10  過失相殺

前記一に認定のとおり、本件事故についての原告の過失割合は三〇パーセントと認められるから、これを右の額から控除すると六一二万一四八八円となる。

8,744,983×70%=6,121,488.1

三  損害の填補 二八万三三一五円

本件事故に基づく損害の填補として右の金額がすでに支払われたことは当事者間に争いがない。これを右の損害から控除すると、残額は五八三万八一七三円となる。

四  弁護士費用(請求額一〇〇万円) 六〇万円

右に認定の損害の額に照らし、右の金額が本件事故と相当因果関係の範囲内と認める。

五  結論

以上によれば、原告の損害は六四三万八一七三円と認められるから、原告の請求はこの限度で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例